長文置き場

備忘録

歌舞伎町シャーロック 感想

www.amazon.co.jp

 

新宿區イーストサイド……混沌を極めたその街の中心には、ネオン瞬く歌舞伎町が広がっていた。

光が強けりゃ影も濃い。悪人どもの潜む暗がりの、そのまた奥に探偵長屋の明かりが灯る。

ハドソン夫人の営むその長屋は、なくて七癖、曲者ぞろい。野心満々のケッペキ探偵に、男を化かす姉妹探偵。はたまた刑事くずれのオッサン探偵がいるかと思えば、ヤクザを破門されたアンチャン探偵……

そして真打は、落語をこよなく愛する天才探偵シャーロック・ホームズ切り裂きジャックによる猟奇殺人が起きたその夜、舞台の幕は上がった。

探偵どもの化かし合いを横糸に、シャーロック、ワトソン、モリアーティ、三つどもえの友情を縦糸に……

ミステリー? いやさコメディ? なんともはや、判別不能ドラマのはじまりはじまり~。

 

 

歌舞伎町シャーロック完走しました!

わたしの中で最近山下誠一郎さんがブームになっていて、そういうことを言っていたらかぶしゃろ良いよという話を何回か聞いたので見てみました。

 

タイトルの「歌舞伎町」「シャーロック」から異色感があって、名前の通りシャーロック・ホームズをベースにしてはいるものの、舞台は歌舞伎町です。そしてこのシャーロックは推理を披露するときに落語形式で披露するというこれまたカオス。

シャーロックは歌舞伎町にある探偵長屋というところにいて、同じくその長屋にいる個性豊かな他の探偵たちと依頼された事件を解決していく……みたいなお話です。色んな要素がしっちゃかめっちゃかになっている作品なので、あらすじ見てもよくわかんなかったし、実際見た方がこういう話なのか、ということがわかりやすかったです。

 

結論から言うと、うーーーんもうひと押し欲しかったなというところでした。一話単位で見ると面白いけれど、全体を通して見ると若干の物足りなさが残る作品に思いました。

1クールめの主題である切り裂きジャックの事件はかなり面白くて、シャーロック、ワトソン、アイリーン、モリアーティーの動きや犯人との駆け引きがハラハラして作品としても1番勢いを感じました。

それを終えての2クール目は、モリアーティーがメインになってくることはわかったのですが、今までは生意気で抜け目ないけど歌舞伎町のみんなから愛される賢い少年が、突然悪役ムーブをし始めたので、もうちょっとその変化の過程を見たかったな……というところがあり。シャーロックとの出会いで蝶をバラバラにしていたり、ジャックの喉をかき切って殺すというハードな殺し方をしているあたり、ヤバい子な伏線はあるのですが、もうちょっと欲しかったです。

刑務所での暮らしもいじめられていたことくらいしか描写されていなくて、詳細を描いた小説版が発売されているのですが、正直アニメで見たかったかな!彼が「モリアーティー」という名前じゃなかったら、突然の豹変についていけなかったと思います。

これに関してはシャーロックとワトソンの関係性についても同じように感じました。シャーロックとワトソンという名前がついているから、この2人が特別な関係性だとわかるけれど、そうじゃなかったらえっそんなに仲良くなってたの?って思っちゃってたかもしれません。

 

なんかこう描いてほしいところが描写不足で、それなのに中だるみするところもあり、尺の取捨選択がズレていたような節を感じました。やりたいことはわかる…!という感じなんですが。

探偵長屋のみんなは大好きなのですが、個人的には序盤からシャーロック、ワトソン、モリアーティーの関係性描写にメインで尺を使ってほしかったところがあります。要素を詰め込みすぎて大事なところが描写足りていなかったり、シャーロックとワトソンが個性豊かな面々と共に事件を解決するという軸と、シャーロックvsモリアーティーの軸があんまり上手いこと融合しなかったというか、尺の奪い合いになってしまっている印象だったのが残念に思いました。

 

だけど、シャーロックとモリアーティーの関係性とか、あの話の終わり方とか、モリアーティーのキャラ解釈についてはかなり好きでした。この作品、シャーロックものではあるけれど、実際モリアーティーのためのお話ですよね。2クール目はモリアーティーで話を引っ張っていましたし。

モリアーティーをシャーロックと比べてだいぶ若い10代の少年に設定したところがすごく良いなと思っていて、確かにサイコパスだったりシリアルキラーの素質は持っていたけれども、そこに若さゆえのどっちに転ぶかわからない揺らぎが存在していたところがすごく好きです。

心が空っぽで人を殺すことに何の良心の呵責もなかったことも本当だし、歌舞伎町の人たちと過ごすことが楽しくて、シャーロックを親友だと思っていて、悪に堕ちてからも手放したくなかった一緒にいてほしかったと思っていたことも本当で、その普通と普通じゃないところが同居していたところが魅力的に思いました。

 

 

それこそシャーロックのように空っぽの心を持ちながらも、一線を踏み外さず、ティーポットを満たす方向に変われた可能性が十分あったからこそ、一線を踏み外し、もうやり直せないレベルに悪事を積み重ね、最終的に死を選んでしまったのがすごく切なかったです。ほんと10代なのにねまだ……。若いってことはそれだけ時間があるから希望があると言われがちだけど、モリアーティーは若かったからこそ、シャーロックと違って、まだ世界との折り合いをつけることができなかったし、その前に最悪の転機が訪れてしまったんですね。

 

山下さん目当てで視聴したんですが、いやあ本当に演技が良いなあ。生意気に煽ってくるときの聞いてて苛立つ感じとかさすがだし、空っぽで飄々とした感じがすごく上手い。エースのときもめっちゃ思ったけど、山下さんの「ばぁーーか」世界一じゃないですか?ビルから飛び降りるときも、手紙の最後も、ばぁーーかなのがめちゃくちゃ良いですよね……。

山下さんの演技、仰々しさがなくてナチュラルなんですけど、それでいて不思議と耳に残る声質なので存在感がちゃんとあるところがすっごい好きなんですよね。あと無駄な起伏の激しさがないから聞いていて胸やけしないし、それでいて感情がピークになるポイントはしっかり押さえてくれるから、物足りなさも全くなくて、本当に好きだな……。

 

作品としては惜しいところもあったんですが、好きだと思えるところもあり、結局歌舞伎町のみんなは好きになってしまったので、最終回は寂しさがありました。本当は1日1~2話ベースでのんびりいこうと思ったんですが、切り裂きジャックのあたりでエンジンがかかってしまい、アイリーン登場の7話から3日で最終回まで見てしまいました。なんだかんだ引力を感じる作品であり、すごく楽しかったです!