長文置き場

備忘録

我らジャンヌ~少女聖戦歌劇~ 感想

 

 

今わたしのTLでは数日前まで無料配信があったことで繭期で盛り上がっていますが、そんな中でLILIUMと同じく末満さんが手がけたリバースシステムありのゲキハロ作品である、我らジャンヌについて書きます。

生身の人間を推しているオタクにはぜひ見てほしいですし、特にアイドルオタクや、推しを神様のように信仰してしまうタイプのオタクはゴリゴリに刺さる作品だと思います。

 

“歴史の影に埋もれた、もうひとつのジャンヌ・ダルク伝説――”

1431年フランス。

オルレアンを解放した聖女ジャンヌ・ダルクは、異端裁判で魔女の汚名を被され、ルーアンで火あぶりの刑に処される。


それから5年後、イングランド軍の占領下にあったフランスの或る街に、「死神」と恐れられる将軍が派遣されてくる。

彼の目的は、生き延びたジャンヌの兄妹たちを亡き者にし、未だに根強く残る「ジャンヌ生存説」を払拭するものだった。

ある日、街にジャンヌ・ダルクが民衆の前に姿を現す。

しかしそれは、街の人々が仕掛けた大ペテン劇だった……。

ゲキハロ第13回公演「我らジャンヌ~少女聖戦歌劇~」

 

この作品を初めて見たのは多分5年前とかだったと思います。キャストの1人である山本匠馬さんを推していたフォロワーがいて、あの頃仮面ライダーキバを見た直後だったこともあり、いくつか出演舞台の円盤を見せてもらっていた中の1つがこれだったと記憶しています。ちなみにそのときはRのみを見ていました。

それで初めてこの作品を見たとき「なんかハッピーエンド風にしてるけどめっちゃ気味が悪い」という感想を持ちました。でもそこまで露悪的な感じじゃなくて、なんか魚の骨が喉に刺さったみたいなじんわりとした違和感?みたいなのが残りました。

 

この作品、あらすじを簡潔にまとめると、ジジという少女をジャンヌ・ダルクに仕立て上げて、ジャンヌ生存説を流すことで解放軍の士気を上げ、街をイングランド軍の占領から解放しようという話です。それでこの普通の花売りの少女であるジジを、英雄ジャンヌ・ダルクに仕立て上げ、大勢の人がジジをこの国の希望だ救世主だと祭り上げ信仰していく様子が当時見ていてすごく気味悪く感じたんですね。いやだって元は普通の少女だぞ?大勢の大人がそんなよってたかって……と。

で、その気味悪さって、そのままアイドルとアイドルオタクの関係性にあてはめられるし、そしてこの気味悪さは実は狙って演出されたものなんだと知った瞬間「やられた!」と思いました。

 

今になってこの作品を配信ではなく円盤を買ってでも見たいなと思ったのは、あのときの「やられた!」 という感情がほんのりでもずっと残り続けていたことと、あれから社会人になってアイドルオタクもガッツリ経験した今、もっと何か見えるものがあるんじゃないかなと思い、コロナ禍で現場に出費できない今しかないと購入しました。

 

 

ストーリー感想

私は末満さんの作品はこれ以外ではTRUMP、SPECTOR、ステーシーズを見ているんですが、これらの作品に比べると話の進み方は王道で、ショッキングな展開があるわけでもないし、展開が読みやすく、あらすじ以上のことは起こらない話だと感じました。だけど明るく進む話の中にある毒っ気に気づくひとは気づくレベルの味付けがすごく良いんですよね。決して鬱作品ではないけれど、毒に気づいた人にとってはじんわりとした違和感のようなものが残る、そんな塩梅の作品だと感じました。

 

やっぱりこの話、何度見てもアイドルとオタクの話に見てしまいます。

その最大の要因かつ気味悪さの根本にあるのが、一大事に巻き込まれているにもかかわらず、主人公であるジジの自我や意思が薄い点だと考えています。ジジ自身がどうしたいのか、どうしていくつもりなのかっていうところが作中通してあんまり見えてこないんですよね。ひたすらジャンヌの声や周囲に流されているだけのように見えます。単にジジが普通の少女としての道を捨て、自己犠牲しただけの話にも思えます。

 

そして周囲の人間も、ジャンヌの後継者・依り代としてジジを見るばかりで、ジャンヌを取っ払ったジジを見ようとする人が全然いません。ピエールやフリートウッドなんて、ジジにジャンヌを投影して一方的にクソデカ感情投げつけて、勝手に救済されただけですしね……どうしようもない男たちしかいない……。

その他にも計画推進派の人たちは自分の意見を押し付けるばかりで、ジジの意思なんか知ったこっちゃねえという利己的な態度が全開です。選択の余地を与える気がない。

もちろんジャンヌ計画反対派としてオルガ、ヴァイオレット、アネモネがいました。が、ヴァイオレットやアネモネはジジとはそこまで深い関係ではないようで何か影響を与えるには至らなかったし、オルガはTとRで印象は違うけれど、(特にTは)過保護だし世話したい気持ちが強すぎてジジの意思を尊重しているようには思えませんでした。そのオルガでさえ結局はジャンヌ計画を仕切りだしましたし。このへんでオルガはジジのために動いているのではなく、ジジを世話したい自分のために動いてるだけなんだなと思いました。

 

ジジの意思は尊重されないまま、アイデンティティが確立されないまま、彼女はジャンヌになって、何かよくわからないうちに周囲がどんどん勝手に盛り上がっていくし、自分に対してではない激重感情を受け止め赦し救済し、大勢の人の希望になっていく構図のグロテスクさが本当にすごい。

ジジ自身多分自分の意思とジャンヌの意思と周囲の意思がぐちゃ混ぜになっていて切り離せなくなっているし、そんなカオスな状態になっていることを本人が気づいていない節すらあります。でも気づかないうちにジジのアイデンティティはジャンヌという強大なカリスマ性を持った他人に塗り潰されてしまうのがもう……。

 

でもこのグロテスクさって、まんま推し(特にアイドル)とオタクの関係性のそれなんですよね。この作品でわたしが「気味悪いな」って思うところ、生身の人間を推すオタクには全部ブーメランとして返ってくるのが本当に恐ろしい作品で。しかもこれ出ている人たちみんな10代前半くらいからアイドル活動してる子たちですよね?みんなジジの辿る道と隣り合わせ、もしくは被っている子がいるかもしれないと思うと震えます。

オタクの方にしても、推しという生身の人間にぼくのかんがえたさいきょうの推しくん/推しちゃん(推し側からしたら別人レベルかもしれない何か)を投影して、勝手に希望もらったりクソデカ感情育んだり救済されたり裏切られたりしてるの、冷静に考えてヤバ……となりました。

1対1でもなかなか手に負えない関係性なんですけど、信仰する人たちの数が増えれば増えるほど、もう本人自身の意思ではどうしようもできない状態になっていくんですよね。終盤の展開とか、これもうジジがこの計画降りたいって思っても周りが盛り上がりすぎて絶対降りられないだろうなって思いました。

 

だけどこの作品の好きなところは、別にこのことを肯定もしなければ否定もしていないところです。気味の悪さは漂ってはいたものの、結局ジャンヌ計画はメスの街に良い結末をもたらしたし、あの街の人たちは救われました。

そして物語のキャラクターたちがこの話の後どのような道を辿ったのかはわからないので、ジャンヌとなったジジが幸せな人生を辿るのか、そうではない末路を辿るのかはわかりません。これは実際のアイドルや推しとされる人たちもそうで、上手いこと折り合いをつけて幸せな人生を辿る人もいれば、そうではない人もいるので、一概に肯定も否定もできないものなんだと思います。

 

 

TとRありましたが、物語として正しいと思うのがTで配役がしっくりくるのがRだと思いました。Tを見たときにジジとジャンヌ逆の方がしっくりくるんじゃないかと思って実際Rの方がしっくり来たんですけど、この話、才能があったがゆえに他者から柄ではない重すぎる役割を背負わされてしまうことがキーになっている気がしたので、Tの方が正史なのかなと。というかあの配役がTだからこそ、そこにキーがあると感じたので、Rの配役がTRUTHだったとしたらまた違う物語に受け取ったかもしれません。

円盤には収録されなかった幻のMARBLE公演も見たかったなあーーーー!!!

 

ジジについて

Tジジ

ジジはジャンヌに自我を塗り潰されたようだったと書きましたが、その印象が強いのがTでした。気弱な女の子ではあったものの、真っ当にジジとしての自我の芽はあったように思えたからです。これは演じていた菅谷梨沙子さんの雰囲気によるところが大きいかもしれません。

だけどジャンヌ計画に巻き込まれる以前に、Tジジはオルガの過保護さによって「オルガがいないと何もできない女の子」に押し込められていたような感じがするんですよね。それもあって自我の形成とか自己主張をする機会が奪われていたような。だからこそ、ジャンヌの役を引き受けたのはジャンヌの声や周囲からの圧に押し負けたから印象が強いです。

そんなTジジはまだ何も描かれていない真っ白なキャンバスのようでした。それがジャンヌの色に塗り潰されてしまったような。ジャンヌとして完成されたのも本当に最後の最後で、塗り潰されていく過程をより感じたのはこっちかなぁと。それもあって、このジジはあんまりこの先希望が見えない気がします。ピエールのこととかも抱えきれなくなってしまいそうな気が。

 

Rジジ

こっちのジジは塗り潰されたより、ジャンヌの色に染まったという印象が強いです。Tが真っ白なキャンバスなら、Rは透明なキャンバスという印象。

Tと比べると元々不思議なところがある女の子という感じがすごくしますし、Rオルガも過保護親というよりはお節介な幼馴染くらいの印象で、Tのジジとオルガよりずっと対等な力関係に見えました。それもあってか、このジジは元々ぼやーっとしてたり、他者への共感性・感応性が高すぎるところがある子なのかなと。ジャンヌの声が聞こえても全くおかしくはない気がしました。

そんなジジなので、ジャンヌとしての完成もTと比べるとえらく早かったですね。マリオンがスパイだと名乗り出て乗り込んできたときには、もう完璧に宗教が完成されていて、マリオンが可哀想に思えてくるぐらいでした。このあたりからずっと見ていて「気味悪い……気味悪いよ……」となっていました。

Tジジは見ていて本当にいたたまれなくなってくるんですが、Rジジは末恐ろしさの方を強く感じました。メス解放後もデカいことしでかしそうだなと……。

 

印象に残ったキャラクター

このへんはサラッといきます。

ジャンヌ

Tジャンヌは終始ずーっと切なそうな顔をしていて、少年とも少女とも言えない中性的で儚い雰囲気があって、本当にこんな子が大勢の期待を背負って英雄として戦ったんか!?と思わされました。すぐ消えてしまいそうな感じがすごくしました。

それに反してRジャンヌは意志の強い表情がすごく印象的で、より英雄然としていた気がしました。

ジジも踏まえてやっぱRの方がしっくりくるというか、収まるべき役割に収まっている感じがあるんですけど、若干の違和感のあるTの方が正史感あるし、あの配役をTRUTHにしたセンスが本当に好き。

 

オルガ

これTとRでジジとの関係性変わってましたよね。Tがいとこで、Rが幼馴染でした。この変更にはものすごく納得しました。

散々書いたんですけど、Tオルガは過保護親のような印象がめちゃくちゃ強かったです。多分これまでもジジに対してあれこれ口出ししてきたのでは…?でも悪い子という感じは全くなくて、ジジを守らなきゃという気持ちが強すぎて、かえってジジを抑圧してしまっているようでした。

Rオルガはお節介な友達くらいの感じでした。Tオルガと比べると、ジジの世話を焼きたいという気持ちはあるものの、ジジが不思議ちゃんなテイストなので空回りしているような印象を受けました。ジジ自身もこのオルガに対しては抑圧されているというより、どこ吹く風みたいな感じがあり。

オルガに関しては、Tジジ×Rオルガ、Rジジ×Tオルガだったらどうなったんだろうという好奇心が強いです。Tジジに関しては抑圧が弱めのRオルガの方が相性が良かったのでは?と思ったりして。

 

コンスタンス/マリオン

ここについては役としての印象ももちろん強かったんですが、リバースキャストが素晴らしかったです。夏焼雅さんは凛としたビジュアルで出てくると場面が引き締まったし、田村芽実さんは初見時も今回も可愛らしい風貌から繰り出されるパワフルな歌声に度肝を抜かれました。

ここは断然Rの配役の方が良かったです。Rコンスタンスは凛々しくて軍の頼もしい女リーダーのオーラがカッコ良かったですし、Rマリオンは父親を想う娘の印象が強くて短い出番ながら存在感がものすごくありました。

 

あとキャラクターというよりキャストという意味では、須藤茉麻さんの存在感はすごかった!パッと目を引く存在感と華やかさがあるし、出てくるだけで雰囲気が明るくなる感じがすごく良かったです。特にアネモネを演じていたときが、姉御肌な酒場の主人って感じですごく好きでした!

それとわたしは全くハロプロには明るくないからこそ、唯一ちゃんとわかるももちがシングルキャストで物語の語り部という配役なのはすごく上手いなあと思いました。

 

締め

時間が経っても記憶の片隅にあっただけあって、改めて見ても本当に面白かったです。コロナ禍というイレギュラーな事態が起きなければ、円盤買ってもう一度見て再解釈してみようとは思わなかったので、早く収束してほしいものの、こういった機会ができたことに対しては良かったかなと思います。

アイドル舞台だからこそ活きてくる題材の話なので、周りのオタクたちにめっちゃ勧めたいです。本当に楽しかったー!!!