長文置き場

備忘録

文豪、そして殺人鬼(令和弐年葉月公演) 感想

 

この作品の存在は去年末から知っていたのだけど、去年12月の公演を「お金がない」という適当な理由で干してしまったことをめちゃくちゃに後悔した作品だった。間違いなく2019年最大の後悔。あのときの自分ひっぱたきたい。

ということがあり、後悔を晴らすべく現地に行くつもり満々だったのが、全公演無観客配信になってしまいめちゃくちゃ凹んだ。TLからも評判の高さが伝わってくる作品だったので初めては絶対生いい!と思い配信を見るか迷ったけれど、結局スルーできずに見た。ちょうど積んでるBLCDのストックもなくなったし、視聴しかけのアニメもなかったので……。

 

この情勢になってから配信形式の作品やライブがたくさん出てきたけれど、現地で見るのが1番じゃん、家では集中できないと積極的に触れたいと思えなかった。もちろん配信は生の代わりになんてならないし、生観劇はこの先何年も色褪せない思い出となる「体験」になるかもしれないけど、配信で見たものは「視聴」止まりで「体験」にはなかなかならないと思う。まあ、数年前にDVDで見たあの作品が忘れられないってことは実際あったけれど……*1

ただ代替にならないとはいえ、本当に面白くて自分の好みにピッタリの作品は生だろうと配信だろうと引き込まれるものではないかと思っている。まあ没入感と余韻はだいぶ削がれちゃうけど!!

 

前置きが長くなってしまったけれど、配信形式集中できない問題なんか全く関係ないくらい文殺は面白い作品だったということが書きたかった。

以下ネタバレ全開の感想。わたしが見たのは29日夜(佐藤/田丸/小松)と30日夜(濱野/益山/千葉)の回。特別贔屓にしているキャストはいなかったので、とりあえず全員見たいと思った。フラットに見れて楽しかったな!

 

 

ストーリー

昭和40年代。 各地で起こる心中事件が紡ぐ、三人の奇妙な友情の糸。

若き小説家・菅 忠義(かん ただよし)、あるハンディキャップを背負った・一糸 朱知(いっし あけとも)。
隣同士に住む青年二人は、各地で起こる心中事件を追うフリー記者・尺 光輝(しゃく こうき)と出会い、それぞれの罪と罰に対峙する事になる。

http://event-info.kadokawa.co.jp/event/entry-20200715.html

作品名やあらすじからミステリーを想像してしまったけれど、ミステリー要素は割と薄い。心中事件は舞台装置の1つでしかなく、メインは登場人物たちの人間ドラマだった。大きな波がある感じではなく、淡々と物語は進んでいくのだけど、静かにでもグイグイ引き込んでいく作りですごく面白かった。

事件の真相自体はわかりやすい伏線が貼られるので犯人も早々にわかった人が多いと思うけれど(わたしは初見時まんまとミスリードにハマった)、各々が抱える秘密や想いが明かされたときにはアッと思わされるので、ネタバレ厳禁の作品であることは間違いないと思った。

 

キャストを変えて何度も再演されているだけあって、どういう話だったかとか、どういうキャラクターであったか、という部分はキャストの色によるところが大きいと感じた。もちろん起こる出来事が変わるわけではないけれど、キャストによって微妙に違う人物像や話になっていくのがすごく面白かったし、もっと色んな人の文殺を見たい。これからも何度も再演されてほしいと思える作品だった。次があるときは絶対絶対生で観劇したい。

 

29日夜公演

尺 光輝:佐藤拓也

最初は柔和で穏やかでたまにセクシーなお兄さんという印象だった。多分ぱっと見人畜無害な綺麗なお兄さんだけどどこか人を惑わす雰囲気のある見た目してると思う。

冒頭から終盤にかけてあまり話し方のトーンが変わらなくて、最初はそれが優しい人に映ったけど、終盤めっちゃ怖かった。「どうも、お兄さん」はめちゃくちゃゾワッとした。一般的な人間の倫理観やルールで生きていない感じがものすごい。生きるための人殺しについても、作中で彼が言うように「牛や豚や鶏に罪悪感を抱きながら肉を食べますか?」ってって本気で思っているし、そこに何の疑問も抱いていないような。

なんか「観測者」の感じがすごく強かった。それこそカンタダや蜘蛛を違う世界から見ているお釈迦様のごとく、違う世界から菅や朱知のことを見ている感じがした。菅と朱知の共依存関係を壊そうとしたのも、面白そうだと思ったからとか、神様の気まぐれみたいなものだと思う。ずっと終盤面白がってたよね!

だから2人のことは自分が殺してきた人間たちの中でも面白い人たちだとは思っても(実際は尺が殺したわけじゃないけど)、これからも生きるための殺人を繰り返すんだろうな。

 

菅 忠義:田丸篤志

線の細い文学青年みたいなイメージ。あーもう!って言いながら朱知の面倒見ていそう。文学青年の印象が強かったのであからさまに人好きのするタイプではなく、あんな都会から来た作家さんが何で朱知と仲良くしてるんだろうと思われていそうで、この回の菅と朱知は奇妙な関係、奇妙な友情という表現がすごく似合う気がした。

色んな意味でシュッとした印象だからこそ、冒頭の朱知と蓮さんのシーンでのコミカルさがギャップっぽくて光るというか、あんなお茶目な顔を見せるのは朱知相手だからなんだろうなという気がしてすごく好きだった。

最後に死を選んだときに、ついに罪を抱えきれなくなっちゃったのかなと思った。きっと最初は罪滅ぼしのつもりで朱知と関わり始めたのが、だんだんと妙な情が沸いてきちゃって居心地が良くなって離れられなくなったんだと思う。でも罪の意識はずっとあって、それが終盤のやりとりで生きようと張りつめた糸がプツンと切れてしまったような感じがした。

それもこれもきっと情が深い人だったからなんだろうなと思った。

 

一糸 朱知:小松昌平

小松くんはSideMの牙崎を何となく知っているくらいだったので、やんちゃな役が得意?という印象しかなく、ガッツリお芝居を聞くのはこれが初めてだった。

第一印象はか、かわいい~~!!!!朱知かわいい~~!!!だった。一糸家の事件が起こる前までは「朱知がマジで可愛い……」で頭が埋め尽くされていた。途中「これで菅さんが朱知連れ出している間に一糸家で心中起こったらどうしようでもまさかな!」と思ったらその通りになったので「やっぱそうじゃん!!!!」って声出した。

無垢で少し幼い印象があり、年齢は14~5歳くらいを想像していた。視力を失って家の手伝いも勉強もできなかったからこそ、世間知らずっぽくて幼いキャラクターが形成されたのかな。あとは幼くいないと、菅さんにかまってもらえなくなりそうだからというのもありそうな。

可愛くて庇護欲をそそる感じの演技だったこともあり、菅さんに対しても子どもが母親にすがるような、小さな弟がお兄ちゃんにすがるようなそんな印象だった。だからこそ死を選んだのも、親を失い生きていけないと思った子どもの後追い自殺の印象が強かったな。

 

 

30日夜公演

尺 光輝:濱野大輝

途中まではサトタクさんとあまり大枠は変わらない印象だったんだけど、終盤にかけて全然違う人物像になってきてすごく面白かった!

サトタクさんの尺は愉快犯なんだけど、濱野さんの尺は確信犯みたいな感じだった。観測者とか神様な雰囲気はほとんどなく、終盤になるとどんどん人間臭いところが出てきて、菅と朱知にめちゃくちゃ心動かされているんだろうなとすごく感じた。

生きるために人殺しをしないとやっていけない自分の生き方、本当は嫌いなんだろうなあ。笑いながら罪を告白するところ、絶対本心笑ってないでしょ。ずっと柔和な喋り方だったのがどんどん刺々しく露悪的になっていくところに、めっちゃ人間らしい「感情」を感じて、めちゃくちゃ引き込まれた。

菅に「朱知と友達になってほしい」と言われたときにものすごく不快そうに「は?」と返すのが、かえって心が揺れたのかなと感じられてすごく好き。多分本当に友達になるのありだと思ってたんじゃないかな。孤独な感じがすごく伝わってきたので。だからこそ最後1人になってしまったときに、すごく物悲しい雰囲気があった。

尺がお釈迦様をイメージしたキャラクターならば、人間味が薄いサトタクさんの演技の方が正解だと思うんだけど、実は人間臭い濱野さんの尺もとても良かった。

 

菅 忠義:益山武明

益山さんも小松くんと同じくSideMの知識しかなかったので、ガッツリお芝居聞くのはこれが初めて。田丸さんと同じ役をするということで、この2人全然イメージ違うのに!?とビックリしたんだけど、面白い形で裏切られてすごく良かった。

すごく良い人なんだろうなと思った。善性がめっちゃ強い。田丸さんの菅と比べると近所の兄ちゃんという印象がすごく強い。面倒見も良さそうな気がする。朱知とのやりとりもすごくテンポが良くて楽しくて、歳の離れた友達みたいだった。朱知に対しても、最初は罪滅ぼしのために近づいたんだけど、どんどん根の良い人さだったり面倒見の良さが出てきて、朱知にも懐かれて結果めちゃくちゃ仲良くなったみたいに思った。

でもそんな良い人だからこそ、最後には良心の呵責に耐え切れず、朱知の告白を聞いて自分で自分が許せなくなったんだと思った。田丸さんの菅は罪を洗い流すための死なんだけど、益山さんのは自分で自分に下した罰みたいな印象がある。

益山さんの菅、すごく良い人で普通の人っぽくて人間臭くて、温度の高い感じがめちゃくちゃ好きだったな!

 

一糸 朱知:千葉翔也

29日公演を見て朱知は可愛い系だと思っていたので、想像以上に男っぽくてびっくりした。可愛い系だったり無垢な感じはほとんどなく、ハキハキしていてやんちゃそうな感じだった。歳も17~18歳くらいで、ほぼ大人に近い子どもという感じで想像していた。勉強はできなくても勉強的な意味でない頭の良さはありそうだったし、ちゃんと自分で物事を考えられる子という印象があった。

30日の菅と朱知は大人と子ども、保護者と未成年という部分はあるものの、29日と比べると、対等な関係という印象が強かった。小松くんの朱知は菅のことを親代わりに思っていたというか、親的な存在を求めている甘えたな感じが強かったんだけど、ちばしょの朱知は親代わりではなくて、ただ自分にかまってくれる、一緒にいてくれる人を求めていたような感じがする。

自分にとって大切な存在だった菅がいなくなった世界に生きる意味を見出せずに死を選んだように見えた。

 

まとめ

29日公演はすごく雰囲気があって、どこか浮世離れしているように感じた。既にあるおとぎ話みたいにもう決められた結末、ああなるしかない話だと思った。

一方30日公演はみんな人間臭くて終盤の熱さのあるやりとりがすごく印象的だった(29日は冷たくてしっとりした感じ)。3人で仲良くなる結末もあったらいいな、と思わず願ってしまうような話だった。

 

2つの公演にハッキリと違いがあって見ていてすごく楽しかった!話やキャラクター像がキャストの演技によるところが大きいものだと、1人1人の演技が良くても、キャスト同士のパワーバランスが悪いとか、食い合わせが悪いとか、話の流れにそぐわないように感じてしまうこともあるのだけど、どちらの公演もそういった違和感が全くなく話にしっかり集中することができた。

話もキャストの演技も素晴らしくとても満足できた作品だった!繰り返しになるけれど、これからも文殺が再演され続けて、色んなパターンの文殺が見れたらいいなあ。次こそ絶対生で見たい……!