長文置き場

備忘録

死体埋め部の悔恨と青春

家にいる時間が増えたので、以前より本を読む量も少し増えました。これまではその感想文をnoteにアップし、はてブと使い分けていたのですが、どうやらわたしはnoteと仲良くなれないタイプのようだったのではてブに一本化します。

 

noteに感想文をアップした作品の中でも最近特に面白かったこの作品を最初に移行することにしました。その他の作品は後で1つにまとめてアップしたいと思います。noteから加筆修正して出すつもりが、ほぼ原形を留めていません。別物です。

死体埋め部の悔恨と青春 (ポルタ文庫)

死体埋め部の悔恨と青春 (ポルタ文庫)

 

死体の処理、引き受けます。
秘密裏に“案件"を請け負う先輩と巻き込まれ型の後輩が奇妙な死体の謎に挑む。

英知大学に入学したばかりの祝部は、飲み会の帰りに暴漢に襲われた末、誤って相手を殺してしまう。途方に暮れた祝部を救ってくれたのは、同じ大学の先輩だという織賀だった。
しかし死体の始末を申し出てくれた織賀の車には、すでに別の死体が乗っており、祝部は秘密裏に死体の処理を請け負っている織賀の手伝いをする羽目に。
そのうえ、織賀が運ぶ“奇妙な死体"がなぜそんな風に死んだのか、織賀を相手に推理を披露させられることになるのだが…。
繰り返される『死体遺棄』の末に祝部と織賀を待ち受けるものはいったい何か――。
気鋭の作家が描く、異色の青春ミステリー。

 

斜線堂有紀先生は何となく好きだと思っていた作家さんで、この作品も結構前からフォロワーに読んでと何度も催促されていたものでした。ただ「死体埋め部」というワードの強烈さがタイトル見ただけでなんか胃もたれだなあ…と思っていて読むのを後回しにしていた作品でもありました。

そんなこんなで数か月が経ち、この作品がボイスドラマ化されるということをフォロワーのRTで知りまして。

 

うわキャストが普通に好きやんけ……ということと、そういえばこれってフォロワーから読めって何度も言われてたやつということが重なり、読むことを決めました。

原作を先に読むか後に読むか迷ったんですけど、ボイスドラマの後に読んでしまうとある程度イメージが固まってしまうので、イメージ固まる前に読みたいということで先に読みました。

 

ミステリーと銘打ってはいるのですが、この作品の魅力は祝部と織賀先輩の共依存のような執着と信仰と救済をまとめてグツグツ煮込んだ強すぎる関係性にあります(斜線堂先生の十八番)。だから純粋にミステリーを期待するとライトすぎて肩透かしかもしれません。

だけどそれは彼らが「死体埋め部」であって探偵ではないし、謎解きや事件解決のために推理しているのではなく、祝部くんが織賀先輩を満足させるための捧げ物としての推理だからと考えると、推理パートのあっさり感も個人的にはかなり納得できます。そもそも織賀先輩も真相は知らないので、織賀先輩が祝部くんの答えに満足して「承認」するかどうかだけが大事なんですね。

 

斜線堂作品はとにかく文章が読みやすくて、ちょっと読むつもりが一気読みしていたことが何度もあるくらいページをめくる手が止まらないところが好きです。この作品も例に漏れずそうですし、ページ数もそんなに多くはないので、サクッと読める作品を探している方にはすごくおススメです!文章は読みやすく、短い時間でサクッと読めますが、関係性はグツグツでヘビーですし、性癖に対するパンチの強さは保証します!

わたしは読み終えたときあまりにも性癖に刺さりすぎて、深夜2時にも関わらず目がギラギラになったしアドレナリンが出すぎてやばかったです。全然眠れませんでした。

 

以下はネタバレ全開の感想です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軽い気持ちで読んだら、ドストライクに好きなボーイズ関係性でめちゃくちゃになりました。ダメージ的には「私が大好きな小説家を殺すまで」の方がデカかったんですけど、性癖エグり具合だとこちらの方が上でした……。

織賀先輩には神様でいてほしくて、そんな神様の特別でありたかった祝部くんと、今までダークな経歴全てを赦して一緒にいてほしかった織賀先輩のボタンの掛け違いからの崩壊がとてつもなく刺さりました。最高の相性だったしお互いが唯一無二だったはずなのに、祝部くんが信仰し全てを捧げたいと思っていたのは神様としての織賀先輩だったし、祝部くんに全てを赦されたいと思っていた織賀先輩はどこまでも人間だったから、崩壊するしかなかったんだなあと。

それでも埋め部ではない織賀先輩とだったら一緒に生きていたいと祝部くんは思うけど、織賀先輩にとって埋め部は絶対譲れないポイントだからその道もない。今までたくさんひどい体験をしてきて行きついたのが埋め部だから、簡単にやめられるものでもない。好き好んでではなく、生きるためにそうせざるを得なかったからこそ共犯者が欲しかったんだな……。

 

この2人にはもう行きつく先はないし、心中エンドかな?と思ったんですが、祝部くんを助けようとして織賀先輩が崖から転落してしまうというエンドなのはビックリした。

祝部くんは何度か織賀先輩のことを助けたいとモノローグで言っていたのに、織賀先輩が祝部くんを助けるところから2人の関係が始まり、そして終わるって斜線堂先生あまりにも趣味が良すぎて震えました。

 

privatter.net

このべったーを読むと、織賀先輩が祝部を助けて崖から落ちるというのは改訂版であり、元々は不慮の事故で崖から落ちるという結末だったそうで。更に

というわけで、自分の中で死体埋め部は基本的に神様と織賀善一の戦いの話でもあった。なら、そちらの方にもある程度の決着をつけようと思ったのである。それも、本編と同じ形で。お察しの通り、改稿シーンは「神様との直接対決」であり、判断に委ねようとしたのは「織賀善一は神に一矢報いることが出来たのか」ということだ。

この文章を読むとあの結末に物凄く納得がいきますし、改訂版の方が断然良いと思いました。神様に一矢報いることができたかという点で考えると、不慮の事故で落ちるのと祝部くんを助けて落ちるのとでは全然違う。

前者の場合、偶然で、言い換えれば神様の運命のいたずらで織賀先輩は転落したわけなので、神様に勝ててないんですよね。そしてその結果たまたま彼が失いたくなかった祝部くんが生き残ったわけなので、勝利というにはかなり微妙な感じです。

でも後者なら織賀先輩の行動があって祝部くんを助けたことにより、自らが祝部くんを殺し結局は大切なものを奪われてしまう運命を回避したので、試合に負けたが勝負に勝ったと言っていいのではないでしょうか。それに本当にこちらの方が織賀先輩に救いがあって良いなと思います。

 

最後の結末は、読み終わった直後は織賀先輩もう死んでいるから開けてもそこに先輩はいないでほしい派だったんですが、落ち着いた今考えるとどっちでもいいなと思っています。どっちかと聞かれたら、あそこで死んだと思うと答えますが。

このへんの読者に解釈を委ねるエンドもすごく好きで、本当に読んでよかった一冊でした!面白かったー!!