長文置き場

備忘録

ボイメンステージ 諦めが悪い男たち~NEVER SAY NEVER~

3月の現場が軒並み消えていく中、ボイステは開催されることになりまして行ってきました!正直前日に政府からの自粛延長の発表も出ていたので、本当に幕が開くまでは開催がわからないという気持ちだったのですが、無事幕が上がって良かったです。

 

コロナ対策のために通路演出が消え、レクチャー動画も用意されていたのですがコーレスも不可になり、特典会もなくなったとのことでした。だけど結論から言って

メチャクチャ面白かった…!

 正直なところ最初から期待値はそんなに高くなくて、いつも名古屋なのに今回は東京だし推しが主演だし見に行かない選択肢はないでしょくらいの感じでした。話への期待値はほぼありませんでした。あらすじはこんな感じ。

かつて絶大な人気を誇っていたアイドルグループ『グローリーズ』…いつしかその人気は衰え、後輩の若手グループ『キラキラ☆ジェネレーション』と立場が逆転。

こうしてビミョーな関係となった2つのグループが、ロックミュージカルで初共演! スキャンダル発覚で大物女優が失踪!代わりの新人女優は問題だらけ!逃げ出す男に、謎の飛び入り男!無茶ぶりの演出!ついには、公演中止の危機!そんな中、アイドルを辞めるよう説得にくる弟。
「兄さん、いつまでこんなことやってるの?」
果たして『グローリーズ』と『キラキラ☆ジェネレーション』は、舞台を成功に導くことができるのか?
諦めが悪い男たちによる、壮大な “悪あがき舞台公演” が今、幕を開ける!

https://www.boysandmen-boysta.jp/introduction.html

何かあらすじいかにもチープだなあ~~~!!!!!!という感じが否めず。雑なコメディ舞台になる懸念がずっとありました。だけどそんな不安を払拭するレベルに真っ当な舞台で、ちゃんとしていて、すごく面白かった。

 

この舞台の何がすごいって、話の核となるのが舞台をやるかやらないかなんです。あらすじにもある通りキャストが2人も失踪して、このまま続けたら舞台がめちゃくちゃになってしまうという状況で、即席で代役を立てたり強引な演出変更をしてでも舞台を続けるべきなのか、その場しのぎの演出や芝居を観客に見せるくらいなら中止するべきなのかということを約2時間ずっとやっている作品です。劇中劇であるドン・キホーテの開演直前から舞台が始まり、劇中劇のカーテンコールで終わる作品。狙っていないのにあまりにもタイムリーな話。

 

正直この話を今のこの状況下ではないときに見たとしたら、単なるドタバタ系のコメディで消化してしまっていたと思います。キャストが2人もいなくなって公演中止の危機とか現実味を感じられなくてフィクションでしょときっと感じていました。だけど今コロナウィルスの影響でそれこそ嘘みたいにイベントが次々と消えていく中で、主催者の何とか策を講じてギリギリまで開催を粘りたいという努力だったり、それでも開催が叶わなかった公演の関係者の悔しさをあちこちで感じている今、どうしても舞台の開催を諦めたくないというキャラクターたちの気持ちや頑張りには本当に感情移入させられました。

どうしたって今の状況と重ねずにいられないんです。やっぱり自分はオタク側の気持ちしかわからないから、イベントってオタクの方が強く望んでいるものだって思っていたけれど、その日のためにたくさんの時間をかけて準備してきた演者や関係者の方だって当然開催を強く望んでいるんだということに気づかされました。そういう演者側の気持ちを痛感する出来事があったからこそ、この舞台を最大限楽しむことできたように思います。

この舞台図らずも今の情勢が話を最大限楽しめる環境をセッティングしたみたいに感じたんですよね……何という偶然………。

 

舞台の内容と情勢が偶然リンクしたことによる感慨というかエモさによる大幅な加点は否めないんですけど、そもそも舞台の内容が真っ当でちゃんとしていて面白かったです。ご都合展開はあるものの、フォーチュンの割に過度に根性論に偏りすぎない話運びとか(ちゃんとした脚本家の方ちゃんと呼んだんだろうな…)、可能な限りみんなに見せ場を作っていたりとか、そういうバランス感覚がとても魅力的な作品だと感じました。アイドル舞台としては満点ではないでしょうか。

 

私は特に演出家の小野寺さんと、舞台監督の迫田さんがめちゃくちゃ好きでした。裏方組本当に良かった。特に終盤までずっと中止を訴え続ける職人気質な迫田さんの存在は本当にデカかったと思います。

現実世界の問題としても、この舞台世界としても、開催と中止のどっちが正解なんてないんですよね。まあ開演直前に役者が2人もバックれるなら中止の方がむしろ正しいと思うんですけど。だからこそ中盤くらいから満場一致で頑張って乗り切ろー!みたいな展開にされたら、客のことナメてんのかって思います。だからこそ最後まで中止を唱える迫田さんの存在は、開催か中止かという空気を50:50にしてくれていたのですごく良かったんですよね。話にするくらいだから結局は開催するんですけど、可能な範囲で開催こそ最善に空気が偏りすぎないようにしていたのが好印象でした。

特に迫田さんが、スポンサーの意向に逆らえずなかなか中止という判断をしない小野寺さんに「何のために舞台を続けるんですか?保身のためですか?あなたにはこの舞台に愛着はないんですか!?プライドはないんですか!?」と詰め寄るシーンが本当に好きで。みんなで時間をかけて稽古して作り上げたものをお客様に提供するのが自分のプライドだと、こんなその場しのぎの継ぎ接ぎだらけな芝居を見せるなんて演出家としてのプライドはないのかと。

それに対して「でもさ…聞いちゃったんだよ…お客さんがすごく楽しんでくれている歓声……中止にすることが本当にお客様のためなのかな!?今日ここに来てくれた人をどんな手を使ってでも楽しませたい!それが僕のプライドだ!」って返すところとかめちゃくちゃアツくて!このシーン昨日2回見て2回とも胸が熱くなりました。どちらの言い分も正しい…。

祭ちゃんたちにはあまり詳しくないので、ヘタレなたかくんと超怖いうらぽんはものすごく新鮮だったけれど、2人ともすごくハマっていてびっくりしちゃったな…。うらぽんって見た目や振る舞いの可愛さに反して声は低いし京都出身だから関西弁だし、威圧的に喋ろうとしたら本当に威圧感あったのですごかった……。

 

それと上手いなと思ったのが、グローリーズとキラジェネ、一真とタクトの対立を中盤で片づけてしまうところ。タクトは自分たちのグループの方が人気があるのに、年功序列からか落ち目のグローリーズが主演で自分たちが脇役であることに納得がいっていない。グローリーズのことも落ち目の先輩グループだと見下しているし自分たちが脇役の舞台なんてサッサと終わってほしいので、舞台で進行の邪魔をしてしまったりする。そういう若さゆえの傲慢さがあり、リーダーというには自分のことしか見えていない子でした。

だけど本当は心底見下しているわけではなく、反抗期みたいなもので、一真に憧れて芸能界に入ったし、やっぱりあの人には勝てない、舞台を成功させるんだという気持ちを中盤で素直に自覚します。そうしてタクトは進太郎とセリフ合わせをしにいくんですけど、ヘイトコントロール上手え~~!!!!ってめっちゃ思いました。実は真面目な子なんじゃん…!って思っちゃう。映画のジャイアン現象。

やっぱり舞台って見に来てくれている観客のためにやっているものだから、あんまりにも裏での内輪もめの描写が多くても客のことを考えんかーーい!!!!ってなるじゃないですか。身内でのいざこざ描写は必要最小限にして、舞台を続けるのか中止にするのかという二択に収束していったのがとても良かったです。この舞台の好きなところって、役者やキャストの抱えている事情が色々ある中で、常にお客さんのためというのを忘れないところなんですよね。誠実。

 

ここまで書いてきたんですけど、脇がマジで濃いんですよねこの舞台。1期がメインだけど、祭とかBMKの方が存在感のある役じゃないか?って思ったりします。

最初辻本くんが主演だと聞いて、確かに主人公みたいな性格はしているけど、主演ってガラじゃないんだよな…大丈夫かな…オーラ出せるかな…って心配してしました。平成ライダーで例えたら仮面ライダーカブトの加賀美みたいなタイプだから……。結局当初の印象通りやっぱり主役ってガラじゃないんだよなという印象は変わらなかったんですけど、ただそれはそれで物語としていい風に機能していたと思いました。

辻本くんの一真って正直なところそんなにカリスマ性っぽいのはなくて。俺がみんな引っ張ってやる!みたいな感じでもなく。物語としても一真が動いたことで何か大きく変わったわけじゃなくて、キャラクターの多くはこんな状況でも舞台を続けたいという気持ちは持っていて一真もその1人だったという印象でした。でもどんな場面でも舞台をやりたいとハッキリと言い続けていたし、代案も1番積極的に出していて、進太郎の前でこの舞台を最後にすると言ってしまい自分も大変な中でも、みんなの前ではそれを出さず周りへの気配りやフォローを第一にしていた。そんな地味な行動の積み重ねが、周囲にこの人についていきたいとか、この人を真ん中にして盛り立てたいという気持ちをくすぐるのだと感じました。

正直演技は辻本くんのフィールドではないんですけど、でも弟にこれが最後だと言ってしまった後ろめたさのようなものを隠しながらみんなの前では明るく振る舞うところだったり、何度も本当にもうこの舞台はダメだ…ってなったときにシュンとするところのしおらしさだったり、裏側のある明るさが辻本くんならではで良いな……と思いました。辻本くんの明るさには時折切なさみたいなものを伴っているように見えるのがすごく好き。それがめっちゃ出てた。

 

それで今年初めて辻本くんの歌声を生で聞いたんですけど、ビックリするほど本調子じゃなくて、痛々しさすら感じるときもあったし、わたしの大好きなハニーボイスはまだ全然戻っていませんでした。綺麗な歌声とは程遠かったんですけど、やっぱりオタクだからまだ歌えないからって動画放出祭りだった2月のボイワとか、口パクでパフォーマーに徹していたいくつかのライブとか、そのときも稽古ではガッツリ歌ってたんだろうなあ、だって主役だからって思ったらもうこの気持ちが言葉にならない!

その歌声って喉大丈夫なの?まだ完治してないんじゃないの?ということが客に丸わかりなコンディションで主役を演じることも、ボイステの劇中劇みたいに正解のない二択だったんだろうなと思いました。だってあれ絶対まだ歌っちゃいけないでしょ!って感じだったから(本当にダメだったらドクターストップ入るとは思いますが)。でも辻本くんも、一真みたいに他のキャラクターたちみたいに、万全な状態じゃなくても舞台の上に立ちたかったんだろうなと思うと、今この役が来たことに本当に縁を感じました。

辻本くんって本当は物静かであるとか、ナイーブであるとかメンバーから言われてるし、空回りしたときにわかりやすくシュンとなったり、「努めて」元気に振る舞っていることがわかりやすいタイプで、今回も100%の状態でないことが歌声から明け透けになっていて。でもそういう努めている部分がモロバレしていても、みんなの前では元気で明るいつーじーでいようとするその心意気が好きなんだよな!!!!そこが一真やこの舞台の方向性とめっちゃ重なるものがありました。ご機嫌なときにはわかりやすくルンルンになるし、上手くいかなかったり空回りするとわかりやすくシュンとなる末っ子特有の素直さとか隠せなさが応援したいなって思うし……やっぱり椎名林檎の幸福論*1になってしまう……。

 

話を作品に戻します。

個人的に終わり方がとても好きで、とりあえずこの回のドン・キホーテは観客に受け入れられて終わったということしか描かれていないんですね。この先の公演はどうなったのか、一真は父親を説得できたのか、落ち目だったグローリーズの人気は回復したのか、そういうことは一切描かれませんでした。だけど全てが全て丸く収まらないからこそ良いと思いました。この舞台が描いていたことは、この公演を続けるべきか否かということなので、それ以外の問題については答えを出さず希望を匂わせるにとどまるという掘り下げの取捨選択がとても良かったです。これでこの舞台は全公演大成功に終わり追加公演も無事決定、グローリーズの人気も回復して大団円!とかになっていたらすげー野暮だなって思います。でもそれをしなかった。

何ならこの公演が成功したか否かということすら厳密には明言されていなくて、ただ舞台が終わったとき、カーテンコールで全てのトラブルを告白したとき、客席からは拍手があったという描写だけです。つまりそれは成功したということなんだけれど、拍手で判断するならば客の中にはこんな公演クソ食らえだと思って拍手をしなかった人もいるかもしれない。その客にとってはこの公演は失敗だし、そういう人がいるかもしれないという余地を残していたのが物凄く好きでした。決して演者側が成功か失敗かを決めることはなかった、そこにこの作品の誠実さを感じました。

 

今回の辻本くんのビジュアルめちゃくちゃ好きで、去年くらいに「推し赤メッシュ入れてくれないかなーー」って言ってたらマジで叶ったんですよ。だから特典会本当はやるつもりだったって聞いたとき、この辻本くんが撮れないなんて!!!!!!!ってマジで悲しく思ったのは事実なんですけど、でもそれをチャラにするくらいにはこの舞台見てよかったと思えました。ムシャクシャしたので買う予定のなかったアクスタを買いました。16種ランダムという鬼畜仕様だったんですが、2つ買ったら推しが引けて最高です。

コーレスとか通路演出とか特典会とか、予定通りあったら絶対楽しかったんだろうけど、でもこれらがあったらこんなにも話そのものに向き合うことはなかったかもしれないとも思いました。いやマジで良い舞台だったから直接本人に感想伝えたかったんだけど!!!!!悔しいね!!!!!

 

最初は辻本くんが出るところだけでいいやって思ってたんですけど、今はブルー足したくて仕方ないです。配役変わったら絶対楽しい。チケットも始まる前こそそんなに売れていなかったけど、開演してから売り切れた回がいくつかあるので理想的な売れ具合じゃん!って感動しています。アイドル舞台で近さを売りにしているグループで、コーレスと通路演出と接触が消えたのに売れるってすごくない!?

正直初日2日目と開演したとはいえ、最後までできるかどうかにはまだ不安要素が残るとは思うんですが、無事に全公演が終了することを祈っています。

*1:「素顔で泣いて笑う君にエナジィを燃やすだけなのです」