長文置き場

備忘録

ユリイカ 日本の男性アイドル2019

 

 

わたしには会う度アイドル論のようなものを語り合っているフォロワーがいるのですが、そのフォロワーが読んでいたので、わたしも買ってしまいました。

アイドル自体はもちろん大好きで日々推しに脳を溶かしているオタクではあるものの、男性アイドル界隈の流れというか動向そのものだったり、これから日本のエンターテイメントってどうなるんだろうといったことをぐだぐだ考えるのが大好きです。そんなわたしにはうってつけの本でした。

以下読書感想文のような全くまとまっていないこの本を読んで考えたこと。

 

アイドルって結局何? 

タイトルに「男性アイドル」とあるようにこの本の中身の半分はジャニーズについてです。だけど登場するのはジャニーズだけではありません。LDHK-POPも登場しますし、ボーイズグループ、地下メンズアイドル、若手俳優、声優、V系、歌い手、二次元アイドル、少女漫画、果てはAV男優、恋愛リアリティーショーに登場する男性、SNSにコーディネートを掲載しバズる一般人…などなどアイドルって何でもありだな!!!!というくらい、(主に)女性の消費の対象となる男性が広いジャンルで取り上げられています。

 

様々なジャンルを取り上げて語られるアイドル論を読んでいく度「結局アイドルって何なんだろう…」という感情が湧いてきました。アイドル特集とうたいながら、多種多様な職業の人たちが紹介されているところからして、アイドルを職業の1つとして捉えることが前提として違うのかもしれないと思いました。

わたしの考えるアイドルの条件というのは3つあります。

・メインは歌って踊ることだが、俳優もやるしバラエティにも出るしジャンルに捉われないマルチな活動をしていること

・スキルを第一もしくは唯一の売りにしているのではなく、その人自身のキャラクターやその人の持つストーリー、成長の過程をファンと共有することを売りにしていること(スキルというよりそれも含めた自分自身が商品)

・仕事に影響することなので、恋愛関係を公にできない状態にあること

以上3つがアイドルの条件であり、アイドル特有の特徴だと考えていました。

 

とはいえ2つ目と3つ目に関しては、最初からアイドルだけの特権ではないような気がします。2つ目については職業問わず若手とそのオタクって大体そういうとこあるし、そもそも仕事の能力と人柄って切り分けて考えるの難しいし、3つ目についても程度の差こそあれ人気商売してる人ってなかなか恋愛関係を公言できない気がする。

 

そうなるとアイドルの最大の特徴とはマルチ性ということになります。わたし自身結構最近までアイドルの何が良いかと考えたときに、活動内容が幅広いので飽きさせないところという答えを出していました。それはアイドル以外の職業にはない特徴だと思っていました。

だけど今はそれさえも、アイドルの特権でなくなっているということは声優界隈に足を突っ込んでから確信に至りました。音楽活動をする(これここ数年で始まったことではないけれど)、youtuber的なことをする、ニコニコ発信の声優バラエティが大量にある、写真集出す、俳優活動をする………などなど。

 

7ORDERのインタビューの中でこのようなやりとりがありました。

安井「自分のなかのアイドルってなに?」

(中略)

諸星「アイドルのほうが何でもできる感じがある。それこそ舞台もできるし歌もできる」

7ORDER project/七人の出発点・通過点・到達点

わたしもつい最近まで諸星くんのようにアイドルなら何でもできると思っていました。だけど約10年ぶりに声優界隈に足を踏み入れた時に思ったことは「声優って何でもできる…」でした。

個人的にアイドルの次くらいに、もはや同じレベルで何でもできる職業が声優なんじゃないかと思います。男性声優界隈って元々アイドルや俳優と比べて若さ至上主義ではないので、ガッツリ別の業界を経験してから声優になる人も少なくなくて、マルチ性が生まれやすい環境ではあったと思うんですけど。

わたしがつい最近足を踏み入れたのが声優界隈なので例に取り上げましたが、ユリイカを読むと当然声優以外でもこの現象が起こっていることがわかります。

安井「Youtubeでアイドルみたいな活動をしている人もいるけれど、それはYoutuberという肩書きになるし、Instagramでモデルみたいな活動をしている人はインスタグラマーという肩書になる」

7ORDER project/七人の出発点・通過点・到達点

 「浦島坂田船」は楽曲を発信していくグループだが、彼ら本人が演じるオーディオドラマがアルバムやシングルの特典になっていたり、ライブでも曲の合間に朗読劇を行ったりと、「芝居」を積極的に披露していく側面もある。

(中略)

 彼らはアイドルではなくあくまで「歌い手」であり、顔出しもライブ以外では極力していない。

(中略)

 そんな彼らの人気は止まることなく、ついには"アニメ化"するまでになった。

内田裕基/男性アイドルを書くということ。

 

マルチ性すらアイドルだけのものではなくなると、アイドルという職業ってもはや何…?という疑問がますます強くなります。アイドルだけのっていう唯一性がどんどんなくなっていく感じというか。そうなると最初に書いたように、アイドルを職業として捉えるのには限界があるという考えにたどり着きました。

アイドルを職業として捉えるということはつまり最初にアイドル(という存在、枠組み)がいて、それを好きになるオタクという構図のことです。だけど実際本当は逆でオタクが最初にいて、その後にアイドルが生まれるのではないか。

 

このへんについては田中東子さんの「多様化する男性アイドルーー若手俳優・ボーイズグループ・王子たち」にある考察をまるっと載せたいくらいの結論です。

1番これだ!と思った表現は

いまどき、世間ではその人がどんな立場でも、自分ひとりしか応援していなくても、誰かを「推す」という気持ちがあれば、その人はアイドルだ

西森路代/”EXILE系”というセルフイメージを覆すことがいつしか偶像(アイドル)化に繋がった

です。こうして考えるとアイドルというものは最初からそうだと決まっているというよりかは、もはや個人個人で見出すものなのかなあと思います。だから職業として捉えて、アイドルか否かを考えるより、ファン個人個人の判断に委ねるべき概念になっているような。

 

考えていくとどんどんアイドルという概念がふわふわしてくるけれど、核になるものがあるとすれば、やっぱり愛されることだと思うんです。

 たとえばAKBの総選挙で一位になる人というのは、そのときグループ全体でいちばんかわいかったのか、いちばん歌が上手かったのか、ダンスが上手かったのか……と考えていくと、なにかに優れていたということよりも、いちばん人に好かれたからセンターなんだと思うんですよ。歌が下手なところがいいとか、ポンコツなところが魅力とか、そういうパターンはいくらでもある。共通しているのは究極的に言って好きになってもらうことなんです。

歌広場淳/男性アイドルはイケメンなのかーーあるいは好きになるということ

アイドルのジャンルレスさとかマルチ性は、曲などを基本的に他人から提供してもらうという受動性にもあるけれど、本質が「好かれること」「愛されること」にあるからだと思う。それがどんなジャンルの仕事でもその人が好かれたり愛されたりする理由になりうるから、アイドルという概念はめちゃくちゃ幅広くて全てを内包してしまうし、どんな職業の人にもアイドル性を見出すことができる。

アイドルだからスキルが問われないんじゃなくて、スキルが成熟していることも、未熟であることも、アイドルの核である好かれること・愛されることの理由になりうるので、スキルが成熟していることが絶対的な成功の条件にならないだけなんですね。

 

ここまで書いて結局アイドルって何だという疑問に対する答えを出すとするならば、自分の持つものを駆使して誰かに自分のことを好きにさせる人、かなあ。まあこれも歌広場さんの項目にあったことの受け売りだし、同じ回答になっちゃうんだよな!

 

推すことは愛なのか消費なのか

前の項目でアイドルとは好かれる、愛されるのが本質にあるって書いたんですけど、ということは逆にオタクからアイドルに向ける感情だったり行動は愛ということになります。でもオタクを主語にするとどうにもモヤモヤする…みたいな話。

ちょうど筒井晴香さんの「『推し』という隘路とその倫理ーー愛について」という章で「推す」ということは愛の一種なのかについての考察が書かれていてとても興味深かったです。というかこの章は推すと恋愛感情についての差だったり、結婚についてファンならば素直に応援すべきと思いながらそう思えない葛藤について書かれていて、読むとすごくスッキリした気持ちになります。

1番ストンと腑に落ちたのが、推しの結婚を巡るオタクの葛藤について

ここで思い起こしたいこととして、そもそも具体的な何かに惹かれる思いや愛情の在り方が、矛盾を含み、典型的な型にはまらないあり方をしていたとしても、それはなにもおかしなことではない。むしろ、日常的な人間関係の中で友人関係や恋人関係が形成されていく場面においても、ごくありふれたことではないだろうか。

と書かれていた部分です。確かにな、と思います。「推す」ということをするときに、オタクはあまりにも一般人の尺度とかけ離れた行動をしてしまうせいで、普通の感情や関係のそれとは違うものだと思ってしまうけれど、言っても人間の起こす行動だったり感情なので矛盾に満ちているのは当たり前なんですよね。それが金も時間も労力も大量に費やした相手ならば、感情の中身が一筋縄でいくわけがない。

そこはもう変に理屈をつけたり正当化するより、矛盾があるものとして受け入れた方がいいのかもしれない。

 

そして最近よく話題にのぼる「消費」についても書かれていました。

「アイドルを消費している」という表現を言い換えるならば、アイドルその人自身のためではなく、ファンである自分たちの欲望を満たすためにその人に肉体的・感情的な(また、直接的な接触や行為は伴わないものの、ある程度性的な)労働を強いて消耗させているといった意味合いになろう。

筒井晴香/「推し」という隘路とその倫理ーー愛について

この文章を読んで、オタクって推しのためじゃなくて自分のために推しているとか金を出している!という割に、推しを消費しているのは良くない…みたいなこと悩んでたりするから、やっぱり矛盾に満ちているよなあと思いました。この定義にのっとるならば、推しを消費しないオタク=自分のためでなく推しのために動くオタクなんですね。とはいえオタクの言う消費って大体この定義の通りだと思います。

 

でもわたしは結局言うてもオタクには金出すか出さないかの二択しかないやん?という考えです。わたしはお金を払って推しが提供するエンターテイメントを享受する消費者であるというスタンスなので、未だに推しを消費しない推し方というのはわかりません。オタクやってる時点で消費してますし…くらいの開き直りっぷりです。

悪意は当然だけれど、善意であれど人を潰してしまうことがあって、じゃあどうしろと!?となるし、1番良いのはもはや推しと関わりあわないという結論になってしまう。だけどそれはそれで、ほんの微々たるものとはいえ自分が推していたら推しや事務所にいったかもしれない利益が損なわれるわけで、完璧なアンサーとは言えない。関わりを持たなければ100%苦しめることもないけれど、何らかの利益を与えることもできない。

 

つまりオタクには推しを苦しめる可能性もあるけれど、売上に貢献したりファンレターやプレゼントなどでポジティブな影響も与えられる推す選択をするのか、そういった貢献は全くできないけれど、絶対に苦しめることもない推さない関わらない選択をとるのか、それしかないと思うし、そうやってシンプルに考えるしかない。どちらの選択を取っても一長一短なんだと思います。物事には何をやっても良い面と悪い面がある!

 

そして「推す」という選択肢選んだ場合、結局公式のレギュレーションと最低限のマナーさえ守っていれば、等しく良いオタクであり、堂々としていていいんじゃないでしょうか。それ以外の基準は往々にして事務所も推しの意思も関係ないオタク同士のマウント基準でしかないことがあるし、それ推しにしかわからんくない?ということで延々と悩むことに繋がりかねないので、そのものさしは使わない方がいいと思っています。

対公式で考えても、素人目で見ても明らかにこの仕事の量やばすぎでは?この状況で接触イベント入れるか!?みたいなことなくはないですけど、言っても開催するってことは推しは了承しているわけですしね。本当はイヤな仕事だったとしても、オタクにそれをどうこうする力はないし、本人がイヤだと言わない限りわからないことだし、本人の性格にもよるので(たまの休みにも予定入れてしまうくらい忙しくないと落ち着かないタイプはいる)、与えられたものは楽しむ!と割り切っています。後から重大な事実が判明したりもするけど、何を言っても結果論でそのときオタクにできたことなんて何もないので……。

 

結論を言うと「推す」は特殊ではあるけれど、愛に近い好意的な人間の感情の一種だし、消費については公式のレギュレーションと最低限のマナーさえ守っていれば、必要以上に自罰的に考えることはないのではないかという結論です。

この通り公式の注意事項とか普遍的で明文化されたものが最重要と考えるオタクなので、オタクへの感謝の言葉もありがたいけれど、こういうことするのやめてくださいって素直に言ってくれる人がありがたいとすごく思います。ありがたいこととありがた迷惑の境界線ってほんっっとにわからないし、人の性格によるから可能な範囲でいいので言ってほしいところある。それで改善できることもあるので…。

 

終わり方がわからなくなったのでこのへんでまとめます。

300ページに渡り色んな人のインタビューや寄稿が載っていて、本当に読みごたえがありました。面白く読めたものから、あまりピンとこないものまであったんですけど、間違いなく買ってよかった一冊でした。

ちなみに1番インパクトが強かったのは、突如放り込まれたValkyrieの考察の章でした。他の章はわからない人向けに説明もしてくれるんですけど、Valkyrieの章はわかる奴だけついてこい!みたいな感じが潔かったしあまりにも異彩を放っていました。本人たちもそういうとこあるし、あんスタは神話みたいなところあるからかいつまんで説明できないのもわかる。

 

本当に良い本読めて、久々にめちゃくちゃ頭使ったので良かった!!!